まーつん

青から黒へと
深まっていく海
そこを泳ぐ一匹の魚
銀の鱗の 鈍いきらめきが
終わりなき深淵の入り口に 一瞬の間 ひるがえる

はなやぐサンゴも
ウミユリのたなびきも
今は ささやかな記憶の納戸
その片隅で 静かに 埃をかぶっている
まばたきを知らない おはじきのような 目
その口元は 声にならない問いかけを開いたまま 凍りついて

高まっていく圧力が この身体には心地よい
光の不在が この心には安らげる
暗き海底に 刻まれた秘密を
ついに 読み解いた時
魚は鱗を 脱ぎ捨てる

それは銀の花びらのように
不毛の岩肌に散らばって
闇の奥に溶けていく
小さな命の 墓標となった

それは 言葉

あるいは 足音

語ることを知らず
話すすべも持たず
歩む他はなかった
水辺の旅人の
置き手紙


自由詩Copyright まーつん 2011-12-25 20:21:33
notebook Home