短パンで走り去りながら真後ろを振り返る人の<眺め>

明け方、走りながら、後ろを振り返るひとを見た。 後ろというか、真後ろだ。
短パンから生えた2本足をものすごいスピードで回転させながら、首だけ真後ろを振り返った。
身体は前へ、いしきは真後ろへ。
たぶんぼくは生まれてから一度も、あんなふうに世界を眺めたことがない。

ていう話をかつてRT会議室で人にしたら、電車のボックスシート(進行方向とは逆向き側)に座ってる感じにちかいかもにゃふ。とゆわれた。
たしかにそんな感じにちかいのかもしれないけれど、あの短パンで走り去りながらも首だけ187ど真後ろを振り返った人の、あの<眺め>のダイナミズムに一ミリでも接近したいので(ぼくは首があんなに回らんので一生ムリです!)、すこしだけつけ足して置こう。

『電車のボックスシート(進行方向と逆向き)に腰掛けた地点から、短パンで走り去りながら真後ろを振り返る人の<眺め>に接近するための方法』

まず、にんげんは、掛けると見事に天地が反転する「逆さメガネ」なるモノを装着した状態でも、もちろんさいしょはまともに歩くことさえままなりませんが、次第に慣れてきて、やがて、世界が上下左右反転した状態。その状態がフツーになってきます。むしろそれでそのままで、違和感なくフツーの生活を送れるようにさえなってくる。これは環境に適応する能力とでもいいましょうか、生き物の感覚とはその身に多少の想定外の事態・出来事が起こっても生き延びられるよう、むしろいい加減に、いいようにゆえば"フレキシブル"に出来ているものです。

...その応用で。
あなたは颯爽と電車に飛び乗り、進行方向とは逆向き側のボックスシートにどっかと腰掛けて、ゆっくりと呼吸を整え、ピターーと目を閉じて...、ええとなんていうかこうムリヤリ後頭部に眼を持ってきて...(イメージで)、その"後ろ向きに座ったまま進行している状態"を、あたかも"前向きに座ってフツーに前へ進んでいる状態"として強引に認識(錯覚)し、慣らしましょう。(チョコっと時間がかかるかもしれませんが、脳内で電車で○○!プレイ中のTV画面なんかを思い浮かべながら落ち着いてやれば大丈夫!)

次は、よく車やバイク大好きな人が「俺は風になる!」とか「俺は、車やバイクとひとつになる!」的な表現をしますが、
...その応用で。
電車の色褪せたボックスシートにちょこんと座したままにして、ムリヤリ、ド集中で、半ば強制的に、自己の身体感覚をひたすら拡張・延長して...、ガタピシと走行する巨大な電車と自己との一体化を試みましょう。

...........ハイ。

荒削りながら、これで準備は整いました。
さあ、あなたは身も心もさながら一路国府津駅めがけてパワフルに滑走する16両編成の......電車です!(モチロン真後ろに眼ぇ貼っつけて、しかもそれが前向きのつもりでナ!) 

そして。とつぜん、ぐあっと眼をひらく。

身体は前へ、いしきは真後ろへ....。


短パンで走り去りながら真後ろを振り返った人の<眺め>のダイナミズムを、むりやりシミュレートしてみました。


散文(批評随筆小説等) 短パンで走り去りながら真後ろを振り返る人の<眺め> Copyright  2011-12-25 04:12:08
notebook Home