ああるえくうすせぶむ
根岸 薫

そと は
つめたくよどみ
暗い

十一時十五分

ガラスのくもりを 手で拭う
駐車場で
           内側から
外側の色彩はさびしい
点滅する蛍光灯
ペンキの剥げた看板『山火■注意』
路肩の手前に生まれた、いくまとまりかの


  今わたしが
  うたっている歌も
  (誰の真似もしないように)
  あしたの紀元や紀文(ネリモノの事、も
う少しよく教えてあげる約束だった)や、
  現在地の話も
  もうすぐ
  なにもかも
  聞こえなくなる
  ただし雨のぶつかる音ではなく、
  節分に関する恐ろしい逸話は、
  まあ今はさけておく

ひるまのあかるさは
むろんすでに消えてなくなり
もう何時間も前から
空は、深夜の雨雲を見せている
ちかいところでは
夜空と稜線のさかいめも
よくわからない
雲のあるべきところをみつめるうちに
さっきまで
点だった雨が
みるみるうちに線になり
今夜の
ふたごを
そっと
おもえば
名前はカキ1号とカキ2号になり
尊敬する人物は、1号はリンカーンで
2号は、まがるストローを発明した人

十一時三十七分

寒くならないうちに
エンジンがかけられ
おだやかな轟音とともに
互いのみじかい髪がふるえた
となりは三寸
わたしはその倍
そこからまた五分(時刻の)

いつものように
目の前の壁が
外の空気を押し出せば
それまではり付いていた枯れ葉が
ぺっと離れた

飛んで、     もう見えない

にぶくかがやく銀のからだが
うごきだした
それはそれはうつくしい流線型です(誰?)
2月の、荒れた路面を流れて、
たどる
山へのみち

 (サンドイッチマンのひと、)
 (もう家に帰ったかな?)

電柱の蛍光灯から
雨粒を通り抜け
フェンダーへ降下してきた、
数つぶの光の粒子を
羽の左端がかるくひきずり
闇へと放していく

まるで
さえぎるものもなく
這うように
なめらかに
すべっていく
これは金属 わたしをふくみ
とじこめながら
慣性をみかたにして
左に ななめに

 〈ナレーション〉
  「ブラインドコーナーとは、このようなカーブの
   ことを指していう言葉です。映像で確認でき(略)」


    ほら、その先ヨ、
    信号さあったらハー、どうすんだ

  などというひとはいない


みぞれの混じりはじめた雨に
舐め取られていく、路面のミューの変化を
ただしくとらえる
膝が、
そしてこの有様が
曲線をえがくたび(外から)
わたしの脳髄に
熱風がおくりこまれる

こんやの私の
ちいさな不安【女性】を
支える相手は
裸眼のあやうさから脱却をはかった
ついきのう、積み木の砦を壊したばかり
 ガウディがさ、とかって、わざとこちら
に聞こえるようにつぶやくところがすごい
気にさわるんです
 ガウディがさ、とかって、わざとこちら
に聞こえるようにつぶやくところがすごい
気にさわるんです
しかも、勘違いしながら(ひとりよがり)
つみかさねた経験と、塵の歴史で
これ、を
いま
加速させる、
こんな無機物ないきものよ
そして
いつもと同じ箇所で

 吼えた

脚に相当する部分の、その
じんるいあるいはそのほかをはこぶちから
進化の過程とその先端
中、のほう
内臓の最奥から
突き上げてくる
激しい慟哭は
峠の大気を大きくふるわせ
わたしの弱くしめった腰に
うねるような振動を
絶えずおくりつづけている

(よしんば、って、
 つかわない?)



自由詩 ああるえくうすせぶむ Copyright 根岸 薫 2011-12-24 23:33:54
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