お伽話 / 夢のまた夢
beebee





第一章 夢に見る夢の覚め方 / 目覚める夢


目覚める夢を見たことありますか?

ふぅっと首を上げて気が付くと
目を開ければ車窓の外は地下鉄で
白い蛍光灯の光の中に駅名のプレートが流れていく
通勤の地下鉄で自分は眠っていたらしい
映画の場面を見るような情景に笑ってしまう

でも何か幻惑する想いに
慌てて身体を起した
すると自然に目が覚めた
伸びをして目を開ける
やっぱり眠っていたらしい
カフェの椅子に背を深く入れ伸びをする

今度は本当に目が覚めた
人形町の交差点のスターバックス
B1フロアーのいつもの椅子で
眠っていた
訳も無く動揺して周りを見る
少し暗くした照明に数人の顧客が早朝の眠りを眠っている

意味のない経験に驚く
何か意味があるのかな
ストレスから来る無呼吸症候群?
それだけかな
涙が出た
訳もなく涙が零れた
それだけのこと


第二章 病室で / 醒めない夢


これは夢なんだと思いながら見る夢がありませんか?

不思議と覚めるようでうつうつと
繰り返し同じ夢の世界に彷徨うのです
その時幸福な私は
死の淵のベッドで次のように繰り返し聞くのです

もう一度生まれ変わっても僕と結婚してくれますか?
もう一度生まれ変わってもパパの子どもとして生まれる?

いや
あなたは愛情表現が下手で
わたしはいつも自信がなかった

ううん
パパは子どもに期待しずぎで
わたしはいつも失敗しないか不安だった

きっと聞くたびに言われるその言葉に
今日の自分はどんな言い訳をするのだろうか
今は考えても思いつかない
費やして来た時間だけ想いはあって
積み上げて来た想いが脳裏を廻る
その時
私の体の上に一本の白い糸は天上から下がって来て
私は救われるとはいっさい思いはしない
私は後悔の自責の念に磨り潰されるのかどうか分らない
今日もきっと果てしない痛みがあって
それをかかえながら生きて / 死んでいく
ひとすじの糸を引く闇の雫に
絶対零度の一滴に
私は固定される / ピン留めされる
その瞬間の痛みこそが恋しいのだ
確かに恋しいと思う

気が付くと足を止める淵は
確かに深く測り知れない
いくつもの闇があって人は立ち向かって行く
救いがあるかどうか
全てを賭けて前へ進む

でもこれは醒めない夢なんです
不思議と覚めるようでうつうつと
繰り返し同じ夢の世界に彷徨うのです



第三章 命の森で / 夢の中で人は死ねますか


夢の中では人は何でもできるのでしょうか?

深い森は闇に沈み
杉木立が幾重にも重なって黒く見えた
ここが最後の土地?
河を渡れば戻れない
心の中で誰かが呼んでいる気がするのに
静かな闇は白いもやでけぶってきた

おーい、森よ
静かな森よ
わたしの居場所はあるのか

呼び声がこだまで重なる
山肌を縫って流れる河は冷たく光っている
途中までは飛び石があって
思い切って飛べば向こう岸にも届きそうだ
つんざくような高い声が響いた
夜の鳥はヒトの気配に敏感だ
眠りを起こされ数羽が声を揃えた
長引く声が気持ちを静めた
その時突然に雲間が晴れたのか
山並みの一角に月が現れ
月明かりの輝きが空気を振動させた
流れに沿った道が開けて
遠くに湖が見えた

敵だ、敵がいるぞ

突然の叫び声に回りを見渡すと
独りだったはずの私は
軍兵の一群に交わり
遠く河口に拡がる湖岸を見つめていた
野営する敵の軍団が見え
おびただしい数の篝火が
遠くの方まで散らばって見えた
敵軍の大きさに動揺が軍兵達に走る
無理だ無謀かとの想いが全員に拡がっていく
その時誰かのつぶやきが聞えた

ジャンヌダルク、と

彼女の歌声が夜空に響いた
みんな注意しろ
悪意ある者が近づいて来る
ファインティングポーズを決めろ
ゴングが鳴る、と
冷たくひえた肌は金属のよう
鈍色に輝き
兜を裂いて大きく開いた瞳は
まなじりを決している
大丈夫
緊張する精神よ
撓められた緊張よ
まなじりは決しられたと
弦を放れた殺意は
冷静に力強い一撃を準備している
いざ神よ共にあれ
前へ

ばらばらと川を渡り始める人たち
川の淵を越えて軍兵が進みだした

足を止める淵は確かに深く測り知れない
いくつもの闇があって人は立ち向かって行く
救いがあるかどうか
全てを賭けて前へ進む

だめだめ、起きてください
そろそろ出勤の時間ですよ
携帯のアラームがなる
でもこの覚めない夢のなかで私が死ぬと
それでも私は目覚めるのでしょうか?



 


自由詩 お伽話 / 夢のまた夢 Copyright beebee 2011-12-23 21:43:06
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