ジグソーパズル
望月 ゆき

 

 ピースが一つ足りない、と
 夜がそれを探しに向かう
 朝になるとぼくは、拾ったピースを手にしたまま
 夜が戻るのを待っている


   *


 空の遊水地で、きみが武器を捨てている
 眼差しはしずかに、永久へと沈殿していく
 すると 透明な魚が
 その上を泳いでゆく


   *

 
 女郎花の咲く、沈黙の庭のなかで、
 八月だけが饒舌だ
 弔いは、黄色く擬態している
 生のイメエジは捨てて、
 きみの額に
 夕暮れのように、偏在したい


   *


 ジグソーパズルはいつまでも無名で
 世界はどこまでも不健康だ
 夜行列車を乗り継いでもなお、
 昨日の、失われた朝食に追いつけない


   *


 きみのノートの罫の間で、鳥がさえずっている
 文字は、伝えるすべを忘れて
 空中で分解した
 空白を利用して、さみしさを計算すると
 細胞が音をたてて死んでいく


   *


 ひとつのたしかな約束という
 失望、
 朝露が満ちてきて水位があがると、
 不必要な記憶が、溢れて消える
 また泣ける日のために、笑いながら
 ぼくの言葉を拾いあつめる

 
  *


 おいで。



 ピースが整えられた世界で、
 やがて、
 ぼくたちにふりかかるすべては、新しい







詩誌『狼』19号 掲載作品 





自由詩 ジグソーパズル Copyright 望月 ゆき 2011-12-15 15:48:32
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