船に乗る日
服部 剛
妻の運転する車に乗り
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「状況はどうだい、居ない君に尋ねる」
新たなる日々が、始まろうとしていた。
3年前、自ら世を去った友を思い出していた。
この歌をイヤホンで聞きながら
朝の交差点を渡る僕の頬には、あの日
とめどない涙が、溢れていた
「強く手を振ってあの日の背中に
サヨナラを告げる現在地
動き出すコンパス
さぁ行こうかロストマン 」
異動の決まった職場には
暗闇から這い上がって復帰した
僕の新たな、友がいた
「これが僕の望んだ世界だ
そして今も歩き続ける
不器用な旅路の果てに
正しさを祈りながら 」
妻が僕を目的地に運ぶ
朝の一本道の上に
あたらしい太陽が昇っていた
妻がブレーキを、踏んだ。
僕の顔は、涙でぐしょぐしょだった。
接吻をした
ドアを閉めて、手をふった
ようやく本当の道を・・・歩み始めた。
国道1号線の先にある
これから僕の生きる施設が
まるで何処かへ出航しようとする
巨きな宝の船に見えた
感極まった顔のまま
僕は歩道を歩いてゆく
施設の正面玄関の開いた自動ドアを
無心のままに、入る
いつもより早く来ていた所長が
僕を見て「よろしくな」とひとこと言って笑った
感謝の言葉をのどに詰まらせ、
この心臓の音が
新たな予感に高鳴るまま
僕はまっすぐ、頭を下げていた
※「 」内はBUMPOFCHICKENのアルバム
「ユグドラシル」(トイズファクトリー)の収録曲
「ロストマン」の歌詞より引用しました。