悲しい特権
ただのみきや


家族を失うことは
心の一部が切りとられるということ
腕の一本麻酔もなしに切り落とされたと思ってみれば
その痛みの激しさと
後々続く消失感が
少しは想像できるでしょう
だけど心は人の目にはうつらないから
痛みは本人だけのもの
悲しい特権だ

子供を失うことは
地上で一番悲しいこと
心の中で一番柔らかく
あたたかい部分が切りとられて
急に寒々しく年老いてしまい
受け止めることのできない痛みを持て余して
あらゆるもの 
過去までも歪めてしまう

だけど天国だけは身近になる
死をそれほど厭わなくなる
いやむしろ
人生の旅路の終わりが待ち遠しくなる
すでに心の一部がそこにあるからだ

心やさしき人たちよ
わたしたちの痛みを理解しようなどとは思わないでほしい
できやしないし しなくてもよいことだ
これはわたしたちの悲しみ
他の何者も負うべき悲しみではない

だけど もし
あなたの身近にそんな境遇の人がいたなら
ただいつもより少しだけやさしく
少しだけ親切にしてあげてほしい
知るすべのない人々から受けるやさしさは
天国からの便りのよう
神のあわれみそのままに
生きることを励ますものだから


          《悲しい特権:2011年12月》


自由詩 悲しい特権 Copyright ただのみきや 2011-12-13 00:31:23
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