酸素
AquArium

酸素を吸うと器官が千切れそうになって
吐き出すことしかできないでいる
冷たさ なんかじゃない
痛い 痛い


結露に起こされるようになった
雫の冷たさでなぞった
消えかけそうな意志を
通勤中に思い出しては


長月はじめに
目が合って笑ったことなんかを
マフラーの下で呟いては
白い息を嘆く


始まりの朝と
終わりの朝を迎える
僕らの生き方を想ったりして
日が暮れるころに笑いあいたいと願う


共存できる時間の重なりが少ない
まだ腕まくりしていた頃の
眼差しが残っているだろうか
僕は日増しに美しい理由を重ねている


その煙が消える前に
脳にたくさんのニコチンを入れて
もう離れられないくらいの
毒で動けないようにしたい


苦手な嘘で撫でている
崩れそうな君のパーツを
必死で集めていることに
気づいた僕は虚しさに笑っている


垣間見た紺屋町通り
秘密の横顔とか薄暗い背中に
しがみつくくらいの力が
僕にあればよかったのか


掴んでもすり抜けていく
それは風のようで
空気のような優しさはない
風は吹かずとも生きていけるだろう


だけど
帰宅途中のすれ違う人並みに
就寝前の真っ暗な瞼の奥に
探しているのは きっと


ロングスカートの裾を踏んでしまう
奇抜なデザインのパンプスで走る
近くを通りがかったふりをする
ただ それだけ


落ち葉がボロボロになっていく
意図しないところで変わるものが多い
そうやって知らない間に
置き去りにされていくのかな


忘れてしまった酸素の吸い方を
どうすれば思い出せるのだろう
君に教えてほしい
痛い 痛い


自由詩 酸素 Copyright AquArium 2011-12-10 22:03:22
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