愛着
nonya
十年も使い込んだ御飯茶碗を
呆気なく割られてしまった翌日
雑貨屋の食器売場の谷底を
額に不機嫌なしわを寄せながら
這いずり回っていた
掌と肘と腕に違和感を伝えない
丸みと厚みと高さと重さ
壊れてしまった日常茶飯の
複雑な欠片を探しあぐねて
途方に暮れていた
長い時間をかけて
日常の僅かな隙間に入り込み
知らず知らずのうちに
自分と一緒に呼吸している
ものたち
時には想い出の保護色をまとって
時には自分への道標となって
一緒に傷つき泥にまみれ老いていく
情けなくもいとおしい
ものたち
自分以外には辿り着けない
心の迷路の袋小路で
湿っぽい醗酵臭を漂わせている
「たかが」「これっぽっち」の
ものたち
「何かお探しですか?」
見るに見兼ねた店員が声をかける
「ええ、ちょとお」
みすぼらしい笑顔で誤魔化す
何も買わずに店から逃げ出した
わかるわけがない
わかってほしくもない