頭痛
根岸 薫
さっき屋上にいくって
めがねのおじさんが言っていたからです
「お宅の留守に 何だか知らないが
一匹入っていきましたよ」
主人(照れて)「いや、それはもう」
妻(ほほを染めて)「ええ」
「うす暗いねえ」
床を指さす市長
特別室のドアを開けて
黙り込む部下の家庭は暗い
ところで、あなたのところ最
近ひるめしどうなっているの
かしらすりこぎなんてたまに
はいいかもしれないがしかし
ちいさすぎてかなわないのだ
「……おそろしくて
口には、出せません」
きしむ階段と
それにみあうだけの色彩
をかねそなえて
祖母の入れ歯が鳴りわたる霊安室
「ご利用ありがとうございました」
孤独ないもうとはおしよせたことをあやまり
たのしい夏の腹筋ごっこ
妹「得意な教科は歴史なのよ」
(一同どよめく)
「三週間も通いづめでおやおやハンケチはもっ
たのかなあのとき財布のなかみだれもみてない
のですからこのあいだ死んだ高校生に至っては
汗なんかかいているし近所の米研いでいたとき
から頭痛がひどくて先生、MRIって一体何だ
ったんでしょうお歳暮のこともわたくしちっと
もわからないものですからどうにかオリンピッ
クまでこぎつけたことですしいえほんとにもう
ひきよせて下さい先生、この頭痛あしたまでに
なんとかなりませんかねえ」
そのとき
玉突き屋の青顔ボーイが
「当た―――り―――」
(小声で)「しかしまあ、ひどい顔色ですな」
(同じく小声で)「いや、まったく」
(現代詩手帖読者投稿欄掲載作品)