吾郎
長押 新


飢えた。中身が蒸発して底にこびり付いた消化不良のカスが、見える。水ではちっとも、うるけない。親指の皮に見えるカスが胃に張り付いていてピロリ菌も息が、出来ない。消化不良。消化不良で飢えた。飢えは続いた。三日目の飢えで、私は旅に出ることにした。労働力を安く売って得た小銭をポケットに、入れた。労働力を正当に仕入れている処は、少なかった。私はその正当に入ることが出来なかった。同じようにたいていの人は不正に飼い馴らされ餌を貰うために、働かされていた。腐った野菜を茹でる私の隣で腐りかけの野菜を茹でる男が私の指を、踏んだ。指は赤く腫れて痺れた。それだけだ。その程度の稼ぎをポケットに、入れた。口一杯にほおばりながら腐りかけの労働力を、軽蔑する。私の倍の時間働かされたとしても、嘔吐するためだけに食べるだけではないか。g.uで買った安いジーパンと四年前にUNIQLOで買ったパーカーを羽織り熊のぬいぐるみを、連れ出た。熊のぬいぐるみは飢えを感じない。汚れた顔を押し付け三百二十円を払って電車に、乗った。化学で固まった電車に乗りながら景勝を、眺めた。私の住む町から見える遠くの山が傍を流れる緩やかな川と一目に、映った。この景色の労働力は私よりもぬいぐるみの吾郎よりも高いはずだ。


自由詩 吾郎 Copyright 長押 新 2011-12-08 19:57:46
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