昼顔
根岸 薫

爪は残る

ひとはいない



しめった沈黙をやぶるとき
いつも声が漏れている
いつも雨が降っている

河になる 河になるA



(ひとのこえきこゆれど)

(さむざむとしつつ)

(暮れゆくみどりの雲)

(雲の切れ間)

(わたの音(ね)となり)

(続けざま)

(とこしえに)



『知りたいのなら教えてあげましょうあなたはすでに道をあるいているのです大きな新宿にはやくいきなさいおもうまもなくはっせられていくでしょう今日の時刻をこまかくわけるのも良いでしょうそしてもうあなたの声をだれもきいてはいないでしょう』


少女に

問いかけられている



同じころには
皮がむけている 裸であるから
終われば
少しずつ離れていく
関節



みちるあいだにある

花が開く ひらくもの

丁寧になる 泣くなと言っている



『進めば 着くでしょう あなたは
 誰のところに行きたいのでしょう』



「え?これは?

 これは

 なに?ねえ

 あっ ねえ、これ

 カサ?」



「そうです ああ

 傘です

 ああ 傘です ああ ああ

 あっ」



とびらをひらいたおとこが

おおきな昼顔に向けて

朝の小用を

足している  冬




自由詩 昼顔 Copyright 根岸 薫 2011-12-05 14:51:58
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