「ね」はあげたくない
subaru★

十二月某日
この地はまだ吐いた息が白くならない
気温はこの時期にしては穏やかである
相反して 福岡の繁華街は喧噪としている

次から次へと
多系統の行き先を掲げた市バスが滑り込み
矢継ぎ早に乗客が乗り込む
その土地の風習に
慣れない私は合流することすら出来ない

目的地は埠頭近くの会場
車で行けば十分ほど
手を挙げて 私はタクシーを停めた

ドライバーに行き先を告げ
車で揺れること二分たった時か
窓に貼られた初乗り運賃が五百五十円に気付く

運転手さん
福岡は運賃値上げは無いのですか?
と私は尋ねる

一呼吸おいてドライバーは口を開いた

キロ数と分数が短くなったから
事実上の値上げだね
七百円で行けたところが
今では七百八十円さ
少しやり切れない顔でドライバーは答えた

灯油とか色んなものが値上げして
運転手さんも大変だね
と私は投げ返した

昔は五百五十円もあれば
ボリュームタップリなのが食べれたけど
今は泡のようにスグに消えるね ははは
と少し疲れた顔でドライバーは語る

ドライバーの背中の泣き顔から
私の鳩尾みぞおちに涙を落としていくみたいだった

ドライバーからのお釣りを貰う手の温もりは
果てることなく いつまでも残ったまま
あっという間に 私の一日が過ぎてしまった

このまま 「ね」は上がり続けるのか?
誰も「ね」を上げたくない

洒落たことを呑気に言ってる場合ではないが
音はまだまだ上げたくない
誰も彼も


自由詩 「ね」はあげたくない Copyright subaru★ 2011-12-05 00:06:32
notebook Home
この文書は以下の文書グループに登録されています。
十二月のうた