プール
そらの珊瑚

プールの底に
小さな小さな亀裂が出来ました

最初は
気づかぬふりをしてしまえるほど
ささいな亀裂でございました
そこにあっても
あると言わないかぎり
ないことにしてしまえるのは
致死率100パーセントの生き物にとって
神様が与えたもうた
幸せな能力のひとつかもしれませぬ

秋の夜
プールの中に
輝ける美しい魂が宿りました
もはや魂の持たないプールには戻りたくない
人とはなんと欲深いものでしょうや
朝が来れば
月は輝きを失い
黄金色の魂も消えてしまいました
プールの中に宿ったのは満月でした

いつしか亀裂は大きく育ち
ぽたり、ぽたりと
水は零れ落ちていきました

人は生まれ出た瞬間に
捨ててきた水を
再びプールに溜め込んで
それを少しづつ
無くしながら
生きているのです

無くしながら得るもの
それが素晴らしいものであることを
祈りましょう

いくら頑丈なプールであっても
亀裂はいつしか大きくなって
もう掌では
塞ぎきれないほどです

私に残されている水は
あとどれくらいなのだろうか、と
時々思案してみても
その答えは誰も教えてはくれません
プールにしかわからないことです

今日も
ぽたりぽたりと
水が零れ落ちていくのです



自由詩 プール Copyright そらの珊瑚 2011-12-04 17:18:37
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