人形願望
木原東子


7歳の女子Y、何者かに命じられ
人形を手作りすること決意

綿、晒の布、針糸鋏
どこから手に入れたものか

胴体、手脚四本、それぞれの大きさに
チクチク縫った
ひっくり返して綿を詰める
手脚は大変だ

綿を包んだ布をぎゅっと絞って
丸い頭の出来上がり
胴体に押し込む苦労
手脚は仕方ない背中に縫い付けよう

毛糸の髪の毛つけたら
さあ顔だ
インクで丸いおめめ
睫毛もばっちりだ

近所の女子たち毎日見に来た
お人形なんて買えないその日暮らしの


Yの母親からはいと渡されたもの
Yは目を疑った、母の手造りの人形だった
もっと大きい

でもどこか目の形が可愛くない

しばらくしてYはその子を近所の子にあげてしまった
それほど疎ましかった理由は不明
(今から思えばYの自立心を母親は否定したのだ)

数年して、母の夕子が、社会の宿題中のYに尋ねた
「世の中で一番感謝しなくちゃならない人って誰だと思う?」

世の中のことを習っていたのでYはありたけの職業をあげた

「お百姓さん?」x 「大工さん?」x 「魚屋さん?」x 「先生?」x
万策尽きて「誰なのよ、おかあちゃん、教えて」

「それはね、お父さんとお母さんよ」

Yは真っ青になった

ひどい裏切りのように思われた
無償の愛ではなかったのか、
ありがとうと強いられるような上下関係だったのか
他人のように
いつか自然に心からありがとうと言うのが親子ではなかったのか

そんな風にYが考えた訳ではなかったが
夕子は突然遠い遠い向こう、Yはひとりでこちらにいた


長い年月が過ぎるうちに、その記憶も薄れたが
Yの心から消えることは無かった
思い出すたびに、母はあれを言うべきではなかった、と付け加えた
母の無い子のように


Yには本物のお人形ができた
長年の練習はこのためであったこと
温かい自分の子ども、共にいるだけで充足していた

それでもある日、ひとりふたりと子どもを失った
かれらはYに有り難う、と言って別れた


自由詩 人形願望 Copyright 木原東子 2011-12-04 15:50:05
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