のぼるさん
根岸 薫

指の
剥(む)いてゆくところは
妻か

剥く
くつろぎつつ
ゆっくり
剥く
電話が鳴っている
剥いていて
老いた手の一切を
私は知らない。

意外に
すばやく
動いて
そうして包んで
いつの間にか
話が立ち消え

ふと、
職業

故郷では
年寄りたちが
よりによって
その笑う形
つどい
頬の内側を吸って
組の、記憶は確か
「仕事は何をしていたのでしょう」

知りえぬ
なにかと
このわたしの
聞いても
良いですか

(日暮れだ)、

庭に木がありますか
そして
特技がありますか
是非、
奥様に
桃を
剥いて頂きたく。




自由詩 のぼるさん Copyright 根岸 薫 2011-12-03 21:40:41
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