冬が訪ねてくる深夜
かんな

ポケットから
手帳を取り出す手が冷たい
ことばを整理する
その過程で
冷えてゆくものも温まるものもある
あられが窓をしきりにノックする
冬が訪ねてくる深夜

うまれてきたことに感謝し
そして死にゆくことに後悔するのか
そんなことはいまだに考えないでいる
ただ季節が
あまりにうつくしく過ぎ去っていくので
歳月を数えることに夢中で
いつの間にか
歳を重ねてしまったのだ

過去は置き去りにしてきた
そちらの方が生き易い気がしたからだ
今というのは自由だ
現在は
とらわれない
とらわれずに生きることができる唯一の
思考のひとつ
想像という武器をもつひとはつよい

同時に恋をした
ひどく傷つき
またひどく傷ついたふりをした
愛した
また愛したふりをして
そして愛さずにいられなかったひとがいる
複雑に見えるものほど
内在するものはシンプルで骨組みはもろい
それがこころ

日常に埋没した
感性を拾い上げる行為は
表層だけにとらわれないという
しなやかさ
そう手帳に記せば
冬という事象が何らかのうつくしさへと
変貌をとげる
そのヒントになる

雪の結晶を握りしめれば
儚くも消えてゆくことを知ったとき
ひとつの形が手の内で
生き方を変えるような気がしてならなかった
ひとのこころは
強く誰かに抱きしめられたとき
溶けて形を変えるのだろう
それを
愛と呼べるなら
ことばはひどくうつくしい




自由詩 冬が訪ねてくる深夜 Copyright かんな 2011-12-03 14:06:16
notebook Home 戻る