誰のせいだと言いたいのか
木原東子

ーー序章ーー
Yが父親の佑司と出会ったのは
三歳ごろだった
「お父ちゃんはどこ?]
「マルシャンスク」
それはソ連のどこかの寒い町だ

木炭バスに初めて乗った
佑司が帰国を許されたので
母親の夕子と出迎えにいった
佑司は急いで顔を洗いにいき
夕子はその時間をじれったがった

木炭バスの最後尾で
Yははねて喜んだ
お父ちゃんより跳ねるバスに夢中だった
そして優しいお父ちゃんにすぐに馴染んだ。

ーー本章ーー
Yは長く両親に姿を見せなかった
佑司の病が不治であると告げられたとき
Yの夫もさすがに自由を与えた

Yが父親に謝ることも感謝することも
できぬうちに別れが来た
「どうかしてくれ」
父親がついに言った時
Yは強力な薬を強力に要求した

どうしても勝つつもりでいたはずだったのに
Yは自分が来たことを密かに悔やんだ

Yが生まれた途端に父親は連行され
Yが帰省した途端に永遠に行った

Yが引っ越して来た時Yの弟も死んだ

Yが嫁いだ途端に夫の父親が亡くなった
Yと結婚したために夫は死病にとりつかれた

Yが執着していた長男にも去られた

Yの脳にそんな回路が強くなってきた
愛する男たちから遠去かれ!
あるいは愛を消せ!

もしYでなければ誰のせい?
Yの回りから愛する男を奪っていくのは
誰に利益となる?
サスペンス映画の見過ぎだ
Yの中に自滅のスパイラルが生じているらしい


自由詩 誰のせいだと言いたいのか Copyright 木原東子 2011-11-28 00:12:14
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