クロスロード2
……とある蛙

深夜、満月が天空に輝き道路脇のトウモロコシ畑の背の高さに道路脇が深い闇となっている。そんな道を一人歩く男。そんな夜、大きな棕櫚の樹に向かって歩きだす男。

棕櫚の樹は国道16号と県道の交差点に大きな枝振りを広げて
暗い影を道に落としている。その闇の中に奴はいて、彼に手招きをする。奴に顔はない。奴をよく見るとそこは闇で、闇がケープの中にある。人型の闇。男は何やら奴の持ち出した羊皮紙にサインをしていた。


それから40年 成功もせず失敗ばかり

十字路で会ってに交わした契約は
今では反故になりそうだ、
しかし、これから先の道行きに
指針となるはず 悪魔の言葉
後生大事に抱えたままで
大して楽しくも無い人生を

神に言葉はかけられない
神から言葉はかけられない
いくら教会で待ってもかけられない。
自分でぶつぶつ独り言
そうさ 奴と一緒に独り言
独り言を呟くだけ


牧師も神父も同罪で
神の言葉を口にする が
いずれもどこかの受け売りで
神はこういった(はず)
神ならこうなった(はず)
神に従えばうまく行く(はず)


悪魔は天使のなりの果て
神は悪魔のなりの果て
天使は蛇のなりの果て
自分は赤ん坊のなりの果て

やうやく交わした契約は
悪魔も知らぬ秘密があった。
もらった運命は高価だが
自分に魂はついぞ無い。
本当に魂は無いはずだ。
それを黙って契約し
だから悪魔にディスカウント


平凡な毎日で
決して富豪でも無く
まして権力者でも無く
特に称賛されることも無く
著名人でも無く
新聞記事になるようなことも無く
結局、尊敬はされなく
後ろ指指されることも無く
なんとなく恋愛し
なんとなく結婚し
そろそろ孫もできて
このまま、なんとなく往生するだろう

俺は魂を売ったのだが
……
俺は悪魔に魂を売ったのだが
……
あの交差点での契約は
何だったのか

その時、俺は気づいたのだ。
今意識が遠のいている。
今になってやっと気づいたのだ
悪魔は俺の希望や夢を実現できないようにしたのだ。
俺はすぐあきらめるようになっていたのだ。
っま いいや。
っま いいか。
結局そのまま死んで行くようだ。
悪魔が天井で笑っていやがる。
俺は悪魔に大声で叫んでやった。

俺はよい人生だった
よい家族だった
ありがとう

悪魔は笑いながら言う


ウソつけ

つまりはなから履行不能の契約で
どうにも生きるに都合が悪く
ぼーっと
そのまま死んで行く


男の亡骸はなぜか遺言でその息子が焼場から骨を持ち出し、クロスロードの道端に散骨した。その男の一度だけの法律違反。


自由詩 クロスロード2 Copyright ……とある蛙 2011-11-27 13:16:01
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