習作
ズー



ぼくの街は牧場にあって、家畜と牧草が丘陵の途切れた柵のとなりで圧縮されて濃密な蒸留水となった朝露を落としている窪みに高層ビルが並んでいた。毎朝、ぼくは上着や革靴に花粉をつけたサラリーマンが灰色の小型船舶でたゆたゆと出社していくスープのような小川を、サラリーマンとは逆方向に舵をとり、自然史博物館へと通っていた。いつもならどこに停めても叱られることのない館の停泊所は今日に限って混雑していて、花型の小船と芋虫型の中型船舶の間にやっとのおもいで、ぼくのスペースを見つけることができた。世界一周旅行の記念にもらった雪だるまのマスコットを親指でいじりながら、職員通路をコカコーラの自販機で右におれるとぼくの職場につく。今年も雪を展示するための冬を輸入するチームに配属されたぼくは、館内に溢れた、この街に住んでいる人たちの落ち着かないおしゃべりのなかに雪を降らせる。歓声が上がり、けっして冬の来ないこの牧場の街の片隅で、この仕事にありつけたぼくはたぶん幸せなんだと思う。


自由詩 習作 Copyright ズー 2011-11-26 00:23:18
notebook Home