嘘っぱち
nonya


猫を撫でたあとで
優しさは書かない

返信を待ち焦がれても
淋しさは書かない

軍鶏鍋を食ったからといって
美味しさは書かない

マニュアルをなぞったつもりで
愚かしさは書かない

鼻で唄っているけど
楽しさは書かない

キーを叩きのめしながら
痛々しさは書かない

照れながら手をつないでくれたのに
温かさは書かない

相手にされないという理由で
分かりやすさは書かない

強い酒で性根を消毒して
愉快な戯言で重力を忘れて
宇宙人だか妖怪人間だかになって
帰巣本能だけで帰還した朝の
虚ろな風景の裏側に
べったり塗りつけられた苦さは
頼まれても書かない


書くのは
マネキンの体温だ

書くのは
造花の花束だ

書くのは
可憐なペテンだ

書くのは
リアルな嘘っぱちだ





自由詩 嘘っぱち Copyright nonya 2011-11-23 10:52:11
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