聖なる夜の過ごし方
月音
ラブホテルに行きたいわ
クリスマスにどうしたいかって訊かれたら あたし多分そう答える
37階建てのホテルの最上階の夜景もそれはそれで良いのだけれど
君の瞳に乾杯するほど嘘なんかついてないし
そういうのは何でもない日にしましょうよ
誰もいないドブ川の橋の欄干にもたれて もう これ以上この世にいるのはよそう
とか思っているときに そういう所はいけばいいんじゃないかなって思うの
最近じゃブティックホテルとかファッションホテルとか訳の分からない呼び方になっちゃって
かといって連れ込まれる訳じゃないから連れ込み宿でもないし
やっぱり あたし ラブホテルがいいと思うわ
インターの側に乱立する けばけばしいネオンの看板を目指して高速を走って
目隠しのある駐車場にはいって 決まってどこにあるか分かりにくい入り口を探して
建物に入ったら ちらちらと電飾のパネルから部屋を選んで
鍵をかちゃかちゃさせながらエレベーターに乗りこんで
中ではお互いの体にしっとりと触れあいながら 唇を舐めあって 部屋へ向かうの
部屋のドアを開けたら はしたない目を隠しながら
コートだけ脱いで 黙っていてあげるから あとはどうぞ お気に召すまま
泡泡のバスルームではしゃいで じゃれあってもいいし
あられもないビデオをBGMに いたぶってもいいし
薄い壁の向こうの恋人たちの叫びに耳を澄ましてもいいし
そうね せっかくだからコンビニで買った小さいケーキくらいは食べたいわ
薄いバスローブに包まれて 洗面台に置いてある髪留めで 髪をまとめて
プラスチックのフォークで イチゴをほおばって やっと
ああ 今日は そういう日だったんだなぁとか思い出すの
その後も 何度も 何度も 何度も 繰り返し抱き合って
いつの間にか 眠ってしまって 明日になっていたりして
ねぇ そういうのがいいと思うんだけど
そういうのが ほんとは 正しい過ごし方ってやつだと思うんだけど
そう 一息に 話して リスのような目で 見つめたら
あなた
困った顔で 黙ってしまうかしら