ゆれる根
るるりら

いつもの喫茶店
そこに座る。それは知っている。でも、正面きってだなんて話かけられないよ。
動きだしたい
したい-死体のような-この-こころ-----

作者不在の机を前に 作者不在の椅子に座り
作者不在の大きな窓の喫茶店にいる。
作者不在のこの部屋に 唯一 作者の名があるのは 一枚の絵
【揺れる根】と題した ほそい線の絵。


正面には ロンドンとパリのほうを同時に感知しているような目つきの あの人が
座っていて、 通いあわない心はむきあわないこころは 世の中の大半だ
壁側に 座った あの人とは いつも目が合わない

この人の頭上で
正面の壁に 細い線でひとふで書きのような絵がある
絵の中のガラスコップに一輪の 花
ガラスのコップの中の根
は 揺れているのだと 作者は わたしを そそのかす。
【ゅれてるでしよぉよ、ゆれている根】と。


思えば清潔な店だ 大きな窓のお蔭で明るい
壁の向こうに かすかに店の人の話し声が聞える。店員の囀りに
壁に机や椅子や窓枠の影が映りこんでいる
そして 影が動く

思えば ここは交差点だった
後をふりむくと 銀のトラックが光を運ぶたびに
作者不在のこの店の影が 揺れている
時速四十キロ程度で 右や左に



「揺れるね」と あの人に
言いたい
頭の中で自分の声の音階を 幾度も変える

そして
珈琲の香




光の中で
わたしたちの根が
ことばでなくなり
すこし
おなじように
すこし揺れた

それで
耳たぶが なぜか 熱い

あのひとを
感じながら の ひととき
わたしは いま
あまい 南国に
ゆれる根


自由詩 ゆれる根 Copyright るるりら 2011-11-19 09:10:45
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