冬の闇たまり
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川には黒い雨が降り
それが川底に溜まった黒い川からは
瘴気が漂い
人が欲望のままに踊ったために
生み出された毒が
吹き出す

毒を吸って育った少年たちは
こっそりと蟲を殺す
昔、まだ川の水が
瘴気を孕んでなかった頃の少年と同じように
蟲を殺す

殺された蟲たちは、いつしか土に還った
細切れにされて土に還った

少しだけ運の悪かった少年は
毒に犯されて
大人になれずに死んでいった

少しだけ運のよかった少年が
大人になった頃
土に還った蟲たちは
瘴気を孕んだ草むらで
怨念をぶつぶつと念じている

そんなこととは無縁だった少女は
覚えたての小さな恋心をたよりに
詩を歌った
今日も街に出て、言葉に想いを乗せて
石礫を投げる
そんな優しい時代もあったと
処刑台の前で女が思う

ここでは風を感じない
寒さだけが滲みてくる
女が思ったのは
あの時の少年が生きていてくれたら
きっと違っていただろう
という気持ち

薄暗い部屋で念仏を唱える母は
もう女が死ぬことだけを望んでいる
未来などもう必要ないと
黒い涙を子宮から流しながら



自由詩 冬の闇たまり Copyright within 2011-11-18 14:08:07
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