記憶
菜穂

いつの日にか 同じ道を歩いていた
あの頃と変わらぬ
人々の群れ
忙しく動くバス
排気ガスだらけのビルの谷間

いつか私が落とした心は
残っているのだろうか?

薄汚れた歩道橋の階段は
あの時のまま汚れきっていて
踏みしめる私の足元から
様々な記憶が立ち上がる

一段一段に残る
人々の想い
沢山のドラマ

生ぬるいビル風は
時代を超えて 視界を歪ませた

自分だけ取り残されたような
空虚な気持は
人ごみの中だからこそ
生まれてきた

人の視界から逃れた
壁の隅が
自分には一番お似合いの場所

そうしてやっと
ため息がつける気がしていた


自由詩 記憶 Copyright 菜穂 2011-11-17 15:18:22
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