エロいことだけ考えているほうがまだマシだ
花形新次

死者のことだけを語りたい
死んでしまったあの人のことを語りたい
あの人の残したものだけを語りたい
あの人の心残りを語りたい

生き延びた俺や俺の家族の
健やかな生活のことなど語りたくもない
そんなことを主張したくない

俺は覚えている
あの人と俺との違いは
偶然でしかなかったことを
あの人と俺との違いは
嫌な言い方だが
運でしかなかったことを

生き延びた俺には
みすぼらしいが足がある
何処にでも行ける足がある
おまえらの嫌いなこの列島から
いつでも脱出できる
みすぼらしい足がある

あの人は一体何処に行けると言うのか?

どう考えようと
それは自由だ
しかし、今は声を上げるな
声を上げるには早すぎる
どうしてもと言うならば
そのみすぼらしい足で
黙って過ぎて行くんだ

俺は自分にそう言い聞かせている

死者のことだけを語ろう
死んでしまったあの人のことを語ろう
あの人の残したものだけを語ろう
あの人の心残りを語ろう

今はまだその時間だ


自由詩 エロいことだけ考えているほうがまだマシだ Copyright 花形新次 2011-11-16 20:13:45
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