朝の孤独
花形新次
部屋を一歩踏み出したときから孤独は纏わりついてくる
貧相な湾と丘陵に挟まれて
身動きが取れなくなったこの街に漂う霧のように
湿っぽい感情はいつまでも俺の皮膚から離れない
東京行の駅のホームには
いくつもの不信の影が立って
電車が来るのを後向きの姿勢で待っている
およそ12時間後にはもう少しはっきりとする輪郭も
今はひたすらぼんやりとすることに徹している
覚醒せよ!と叫ぶのは自由だ
しかしおまえは自分のバックパックに詰め込んだ延棒を
増やしたり減らしたりするために
他人を利用しようとしているだけではないのか?
何十年もの間熟成させた鉛の放つ重い空気は
どんなに鋭利な刃物だって切り裂くことは決してできないのだ
車窓から見える風景はいつもと同じようにわずかに霞んでいた
そしてそれは俺自身の脳に張られた一枚の薄膜の所為だということも分かっていた
俺は変わらない
俺の孤独はこの朝のままだ
あと十数年はきっとこのままだ
諦めとは言い切れないどちらかといえば必然とも言える結論が
俺の最終的な弁明だ
次の駅で乗って来て俺の前に立った女性が
長澤まさみに似ていた
孤独は一瞬のうちに相模湾に消えた