鳥貴族の夜に
シリ・カゲル

そうやって家系図の片棒を担ぎながら
鳥貴族の新郎は
ようやくここまで歩いて来た

混迷の小仏トンネルも抜け
惨事の綾瀬バス停付近を横目に
時速4キロで迎えに来たのは
映画スクリーンのある地下室のバー

立食の会場にはすでに小皿を抱えて
近くの牧場からお株を奪いに来た
社会の構成員たち
みんな自分勝手に唾棄する
その先にある、白い光のトンネルを夢想して

スクリーンの向こうにはジェイミー・フォックス
駝鳥の姿を見なくとも
駝鳥の本質を音の符に置き換える
音楽家の役を2時間も好演し続けている

実はトランクに隠してあるんだ。
抱えきれないほどの薔薇の花束
「真っ赤な薔薇って、セクシーじゃないですか」
全盛期のあの人たちが言っていたけど、

鳥貴族の新郎はスクリーンの向こう側に手を伸ばし
独特のモーションで拾い上げる
ソウルの神様があえて音の符に還元しなかった
約束はいつだって駝鳥の羽根

フィルムの切れ端が空回りを続けて
ふわふわとした『ジョージア・オン・マイ・マインド』
もらい欠伸の時間
コーヒーの香りが構成員たちの眠気を覚ますまで
しっとりとした夜になる

だれかがアクセルをふかせすぎると
だれかがブレーキを効かせる
すべてがタマゴの殻の
表側と裏側の問題なのだ


自由詩 鳥貴族の夜に Copyright シリ・カゲル 2011-11-13 22:40:57
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