烏賊の目
オイタル

丸々眠る母の腹から
黒々丸い烏賊の目が
こちらを見ていた。
ここに
この収まり方はどうだと言わんばかりに
長々
見ていた。

 ありがとう
 お前も帰ったの?
 お母さんも帰りだから。

打ち続く明るい夜に
捨て場所を失った毒を
母の体に還流させる
無数の烏賊たち
約束の形に腕を結ばれて
眠ろうとしている。

 すこうし 足を揺らしておいで
 むやみに
 スミを吐かないでおいで

だが 眠れまい。
飢饉のような明るい夜が
お前たちの皮膚の薄皮を削る。
眠れまい。
流れも痛みも
胸元に雪崩れ来る潮の束も
すべてが
昼の海流への帰還を誘っている。

 ゆっくりとナイフを引いてみて
 まだ 濁っているものを
 奥へ押してみて

黒々眠る母の腹へ
丸々丸い烏賊の目が
薄青く光っていた。
時の向こうへと
ゆっくり後退する視線が
蕩けるように

見ていた。


自由詩 烏賊の目 Copyright オイタル 2011-11-12 18:57:59
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