悲しみ
salco

悲しみは空っぽな鳥かごの中
小鳥は遠く離れて野原の地面の下
ひとりぼっちで目を閉じ埋まっている
柔らかな羽毛に包まれた小さな体は
土が含んだ夜露に濡れて

悲しみは流れ星の掠めた夜空にいつまでも
目に見えぬ光跡として残っている
墜ちた願いや絶えた夢は今さえも
君の乾いた両眼に焼きついている
その為に口惜し涙を流す理由もない今でさえ

悲しみは飲み干された酒瓶の中
酔っ払いはもう長らく見つめている
空っぽの瓶の中には終わりがあるだけ
使い古した片道切符の行き着く先は
白昼に曝された陰惨な覚醒だけ

悲しみは古ぼけた松葉杖の初老の男が吹く
口笛のでたらめな旋律の五線にある
皮膚の擦れ、瘤さえ出来た両腋下に体重を支え
足おぼつかぬ幼な児にもこうして追い越され
そんな男が自分の為に吹く行進曲

悲しみは心を病んだ女の朗かな笑い声や
眠られず夜中に水飲む男の咽仏の中にある
雨続きに発狂した女には晴天下、毎日傘を叩いて降り
無骨な掌で無をしか築けなかった男の咽に引っかかる
悲しみは日向の窓辺や安らかなベッドの足元に在る
ただ、そこに在る


自由詩 悲しみ Copyright salco 2011-11-11 23:23:38
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