架空〜closs-linking〜
伊月りさ

吉野川から 鳴門海峡も側溝のように横たわり
淡路島で途切れる
地平線は揺れない
地平線をさがす
わたしを切り離しているのはどの海峡か
どの法則か

(浮いているという錯覚)
(あるがまま) わたしをつながない、
つながりを三大欲求に加える試み
(目と耳をふさぐ)

どうして
橋をかけようとする
何十年もかけて船乗りを殺そうとする
わたしたちのあしもとはみな塩からいだろうに
海底は気まぐれに騒ぎ立てるが
等しく 気まぐれだろうに
なぜ地平線を織る
そのタペストリーは過去
停止した波は何も運ばない
大魚に消化された稚魚を釣り上げることはできない
つながらない
ことを望んできたようにみえる
 ( 予定調和の片道ウン車線を無事故で
 ( 予定調和の片道ウン車線を無事故で
そんな予測変換機能が
こどもたちのごっこ遊びまで侵略している

祖母の話を聞くと きまって
地平線が揺れます
靴の裏側のゴムは高騰し
わたしを宙に留める鉄筋コンクリートは慌てて崩れ落ち
わたしは崩れ落ちる
そして 東京の地下鉄のホームにすし詰めになるのは
月曜日のわたしではなく
幼い日の祖母
幼女は母親に連れられてやっと逃げこみ
わたしたちは扉を全力で塞ぐ
「たすけて!」
「あけてくれ!」
外は火の海
わたしたちが焼かれないために
わたしたちが全身全霊をかけて焼く 蜃気楼
地平線が揺れる、
黄海をこえる、
幼女の父親は陸軍少尉でした
暗く凍える夜に
襲われて 中尉になりました
わたしには少尉の血だけが流れた
わたしから
暗く凍える夜の血は生まれないか
わたしは泳ぐことができる
思い描くことができる
血を生むことが

地平線は揺れていた
だれと示し合わせたわけでもなく
わたしのあしもとでなく
わたしたちのあしもとを鎮めようとしてきた頃
海は支配できず
みな生存者だった
 (あるがまま) わたしを
         つながないと思う傲慢はない
         自給自足が神ではないことを知っていたからだ

ボルトを点検しているか
 (素潜りを惜しまずに)
ボルトは揃っているか
 (潮が鋭く混ざり合って、)
 (海底を抉り、)
 (抉られた海底が揺れる、)
 (方位はない)
 (命名もない)
 (わたしもきみも死ねもありがとうもない)
 (地平線はない)

わたしを画面に閉じこめて
全力で塞ぐ
にせものを告発する
この外は火の海ではない
わたしはおまえを
わたしを
軽くおさえてつまみあげるだけで
鳥瞰を手に入れる
地平線を壊し
濁流にさらわれることもできる
 Fallin’ down
 Fallin’ down
このからだじゅうに架けられた
北方への橋を
渡り歩くにせものを夜襲する
昇進させよう、
だから口を噤め
微塵にされたものの
微塵を
奔放に翻訳するな
暗く凍える夜を
磨いだ割り箸で抉って
下から出てくる模様をたのしむにせものよ
 Fallin’ down
 Fallin’ down

 (あるがまま) わたしはみずからのクロールで横断する
         わたしはみずからの平泳ぎで横断する
         わたしたちは泳ぎ合う
胎内のように


自由詩 架空〜closs-linking〜 Copyright 伊月りさ 2011-11-11 23:04:23
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