11月ふたりのボートが、宝ヶ池をなぞってゆく日
野中奈都

ことしはじめての雪が降る
手ぶくろもしないで
耳あてもしないで
つめたいだけの肌にする
きん、と
こめかみのあたりが痛むのを
わたしは冬のせいに
したくて

 *

おんなのこどうしだから
手をつなぐのだって
クレープをわけあうのだって、へいき
帰り路の途中
宝ヶ池のまわりをぐるりと歩く
かのじょは
わらべうたを口ずさむ
少しだけ歌詞のちがっているうた
少しずつリズムのくずれていくうた
それでも
きもちよさそうにうたっているから
わたしはだまって
つないだ手を
揺らしつづけていた

 *

ネジがね
はずれちゃったん、じゃなくて
からだのなかにうまってしまったんだ、って
それでだいじなしんけいを
あっぱく、しているんだって、
ごめんね
わたしたちもう
おなじ、にはなれないね
ごめんね

 *

って、
かのじょはかなしそうな顔で言った
わたしは泣きそうになって
わずか、足元に視線をおとし、また
かのじょの方をみると、もう
へらへらとわらっていて、もう
ぜんぶでたらめになっていて
だけど
次かなしくなったら
そのときは
ふたりでちゃんと、
泣きたい

 *

ポケットにいれていた黄金糖を
かのじょの口にいれてやる
ふふ、とわらって
ころころと舌で転がすおとがする
ことしはじめての雪が降る
だれも乗せていないボートが
凪いだ池をしずかに
すすみはじめ




自由詩 11月ふたりのボートが、宝ヶ池をなぞってゆく日 Copyright 野中奈都 2011-11-11 03:35:28
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