寡黙のひと
恋月 ぴの
思い出の数には限りがあって
両の手のひらからこぼれた思い出は
ひとひらの色あい
鮮やかに晩秋の野山を彩っては
やがて力尽き
道端の
ふきだまり
静かな眠りに何を夢見る
※
ひと恋しい
何ゆえにと問われても
触れ合う肌の安らぎと組し抱かれて
額に滴る汗は狂おしく
愛する男に犯さる悦びに酔いしれたひと夜が
忘れられないのか
満たされたくて
滲みでる欲情の兆し
メス豚と尻を叩かれた肌の震えはよみがえり
歯がゆさにひと恋しさと
鏡へ映す
この肌のほてりは鎮められずに
※
忘れえぬもの
それゆえにこころの奥襞で疼き
愛は
肉欲は
気づけば漆黒に沈むやせ細った潅木の枝先に
百舌が串差した早贄の長い
長い触角は冷たい北の風に震える