秋空に慕情
モリー
並列運転でのろのろと自転車をこぐ
パーマのとれかかったあなたの髪を
ふやけた空が切り取ってる
あなたは時々私の二の腕をつまみ
ニヤリと笑ってみせた
季節は無情にも過ぎていくというが
それは時間が有り余った人間が言う自惚れだ、と
警句めいた支離滅裂をあなたは言う
私はこくりと頷いて
まだ冬の匂いはしていないから、と柔く言った
河川敷をぶらり歩いていたときに
私は沢山の発見をした
ススキの穂は稲より日を反射し輝くこと
実を付けない銀杏の木
コンクリに残る猫の足あと
刈られた草の生命力と独特のにおい
散歩のあとに抱く寂しさ
冬になっては困る、と眉間にしわを寄せている
なんでも栗ご飯をまだ食べていないらしい
後ろから来た車にクラクションを鳴らされ
彼のしわはより深くなった
私はその谷に落ちていく気がした
冬が来たら牡蠣を食べたい
あなたが傍で焼きそばでも食べていたらもっと良い
無情さも寂しさも
二人で飲み込めばきっと愛しいものになると思う
あなたが急に立ちこぎを始めた
赤と青が曖昧に交じる空
ずんと先を進むあなたの全身から溢れててオーラみたい
網の上の牡蠣のようにも見えた
自転車のライトがいつの間にか道を照らしている
可愛い背中だと、私は小さく息を吐いた