スプリント群
Lily Philia

 

 
 空に無軌道の
 分光が暗闇を
 喰いつぶして前進する
 一塊りになったワルツの中を
 やつらに圧し拉がれて
 ちぢむあたし
 舌を打つ

(二倍率)
からだのあちらこちらから
ぷかりぷかりとしてくる
ぷくりぷくりとしてくる
その仔らの瞳孔を灼いてしまった
まばゆいくらい高い場所で
表層をなぜていった
いかづち

 強烈なすべり台
 ああ、そうさ
 横切る世界が
 瞬間にして終わっちゃう前に
 指先が擦り切れちゃう前に
 いとおしさが足頚を掴み損なっては
 あたしは諦めたみたいに笑う

(四倍率)
繰り返すんだね
誰の足踏みだろう
、あわだね
、あわだね
、わらいごえだね
、くすくす
、くすくす
、くすくす。
疎らにだって燃えているんだよ
だいたい虹みたいに
のこらず空間をうめてゆく
あれは、オシログラフのような?
いいえ。いいえ。
とぶもの。とぶもの。

 外は雨
 突然の雨
 綺羅屑の雨だよ
 照り返しの砂浜でダンス
 素足で踏み散らかすだけの
 不様なステップ
 大騒ぎだ

(十六倍率)
空はぜんぶまっさかさまだ
速さを取り戻した火が滑ってゆく
焚き火の直中を背泳ぐあたし
そして夢をみたんです
突発する鮮やかな光の進入を擦り抜け
そうして
醒めるようにも夢をみたんです

 ねむれる夜底の森に
 あずけたそのからだの
 あちらこちらから
 こげたにおいが満ちてきて
 ふくよかな内側からきこえてくる
 だんだんに
 だんだんに
 いくつにも千切れる
 このからだの
 ピチカートするひかり。








自由詩 スプリント群 Copyright Lily Philia 2011-11-05 21:16:13
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