忘却のうらしまたろう
オイタル

おはなし?
おはなしをしろってか?
テレビはいいのか、テレビは。
んー、おはなしか
そうか。
おはなししろなんてこども、さいきんみたことねえからな。
いやむかし、おはなしってのを
きいたことがあるな。
もういろいろわすれちまったけど。
じゃ、ちょっとな。

んーとな、
むかあしな、おったんだと
ん、たろうな、たろう。
そうだ、あたり。うらしまたろう。
あるひ、つりにいってな、なんかつってたんだと
なんか、かにとか、うにとか、わにとか。
しゃけとかな。
ところがな、
そのひにかぎってなんもひっかからねえ
つれねえな、っつうわけで
帰ろうとしたときだ、
かめがな、
いたんだと、かめ。な。
あの、背中のかたいやつだよ、六角形の。うん。
でな、……えーとかめがな、このかめが、
なにしてたかっというとな、
……えーと、かめだ。な。
このかめが、ま、かめだから
なんか食ってたんだろうな。
ああいう不気味ないきものはとにかく、
なんか食ってっからな、年中。
たぶんな。
で、まあ、このかめが、うらしまたろうと、な、
あったわけだ、なんかな。なんだかしらねえけど。うはは。
で、このかめが、
うらしまさん、
と、こうゆった。

ま、
はい、と、
うらしまさんが、ゆった。
で このかめが、
うらしまさん、うらしまさん、
と、ゆった
そしたら、うらしまさんが、
はい、はい、
と、ゆった。
で、このかめが、
えーと、うらしまさん、
と、ゆった。
でえ、このかめが……
えーと……
まあ……
ま、このかめが
うらしまさん、
とゆった。
うらしまさん、りゅうぐうじょうへ、
そうだ、りゅうぐうじょう、
りゅうぐうじょうへいきませんか
と、ゆった。そうだ、
な。
ゆったんだ。
で、なんで、そうゆったかってゆうと、
ま、くわしい話は……あれだから、
だけど、
そうゆわれれば、な、
だれだって、ほら、
いきたいわな、な? わは。な?
でまあ、いろんな事情は、
あったんだろうけど、
いくことになったんだ。
で、
りゅうぐうじょうに、いった。
そしたらな、
おひめさま、
これがいたんだな。
きれいなおひめさまだ。んん。
で、おひめさまが、
うらしまさん。
と、こうゆった。
でうらしまさんが……えと、
はい。
と、こうゆった。
で、おひめさまが、
うらしまさん、うらしまさん、
とゆった。
で、えーと……かめが、いやいや、
うらしまさんが、……えーと、あーと、
うらしまさん、と、……また、ゆった。いや、
で、うらしまさんが、ゆったんだ。
はいとゆった。
で。
でまあ、いろいろあって、
あそうだ、
あれだ、あの踊り。
たいやひらめだ。な、その、
たいやひらめや
きりこんぶとかきざみねぎとか
まあそういったやつらが、
まいおどり、を、したんだな。
まあ、おどりだ。
「マーイ、マイ」
とかってゆって、おどるんだな。
歌の文句だな、「マーイ、マイ」ってな。うはは。
で、
二、三日飲んで食って
そしたらうらしまが、
帰ります、
ってゆったんだ。そして帰ったんだ。
で、ただも帰せないじゃないか、
でな、えーと、あれだ、
あのおみやげ
えーっと、すずりじゃなくて、
かしわじゃなくて
あれ、なんだっけ
あのお化けが運んでくるやつ。
かいわれじゃなくって
えのきじゃなくって
しょうぼうしょじゃなくって
あのー、
はこ。ほれ、あの
たまてばこ。
そう、それだ、それを、なんだっけ?
うらしまが、拾ったんじゃなくて、
もらったんじゃなくて
見つけたんじゃなくって
もらったんだよ、もらったんだ。
おみやげでもらったんだよ。
で、
お土産だから
な、あけたわけだ、
で、あけたら、
えーと あけたら、
えーと、なかなかあかなくてな、これが。
で苦労して、えーと、
こう、やっとあけて、
あけてびっくり、たまてばこ。
えーとびっくりしてな、
うらしまたろうが、
おじいさんになってしまったんだと。
だからまあ、世の中、
きちんとくらしていけよと、
こういうわけだな。

    (筒井やすたかに倣って)


散文(批評随筆小説等) 忘却のうらしまたろう Copyright オイタル 2011-11-05 20:18:48
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