男色を歌ふ歌ども(二千十一年十一月四日金曜日)
攝津正

ひたすらに愛してゐれば遥かなる彼を思ひて胸が高鳴る
恋心溢れてゐれば中年のわれと云へども若くなるかも
同性を恋するわれは孤独でも彼がゐるゆゑ淋しくはなし
男色を愉しむわれは背徳かされども此れが本性なりき
倒錯と云はれるとても性癖は変へられぬので己貫く
伸びやかに同性愛を歌ふわれ恋してゐるゆゑ怖きものなし
男色の悦びをただ感じつつ彼を愛するそれだけの日々
お互ひに中年なれどこゝろでは若きつもりで二人愉しむ
隣県に住まひし彼氏が通ひ来て我が家で過ごすもこれまた愉し
愛あれば困難あれど乗り越へて共に人生歩まんと思ふ
千葉県の二和東に住み付きて二十四年を生き抜きてをり
船橋の変人と云ふわれなれどただひたむきに暮らしてゐるのみ
船橋を愛すわれゆゑ都会には出ずに地元で静かに暮らす
船橋のホモセクシュアルとはわれなりと名乗れどそれもさして意味なし
父母にカミングアウトが出来ぬゆゑ窮屈なれど我慢してゐる
友人が訪ねてくるのを待ちてゐるその名前こそミヤチカならん
ミヤチカの小説を読み設定の巧き憎さに微笑みてゐる
思想をば営みてゐるわれなれど豊かな考へまるで浮かばず
思想家を名乗りてゐても虚しくてなんの実りもありはせぬゆゑ
われはたゞ青少年を好めれど中年男も味わひ深し
中年の恋も密かに燃へあがり見へぬ炎が立ち昇りてゐる
中年になりて初めて恋愛の甘く酸ひしを思ひ知りたり
恋こゞろ露はに晒すわれゆゑに友達はみな笑ひてゐたり
歌を詠むわれは一人のgayなれば愉しきことども詠まんと誓ふ
友去りて「安心」出来ぬわれ残り生きる困難増幅させる
書を読めど「安心」できぬわれゆゑにおろかなれども死に憧る
本当の「安心」こそは死ぬことと思ひ定めて数十年経つ
生きてゐる間は真の「安心」は来るはずもなしと思ひ定める
不安ゆゑ「安心」出来ず騒ぎ立て家族も友も皆を困らす
落ち着かぬわがおもひこそをかしくて気狂ひなりと云はれるも可なり
子規よりも死期を悟れるわれなれど恋してゐるから暫く生きん
秋でさへ欝に沈めるわれゆゑに逢瀬の時のみ待ち焦がれてゐる
週一度彼氏と会へる嬉しさに全て投げ出し逢瀬に備へる
船橋に通ひ来たるは彼氏ゆゑわれは待つ身で期待に焦がれる
二和の地田舎ならんと思へども此処より他に逢へる場所なし
船橋の自宅で彼を待つわれは年増のgayで艶気などなし
「可愛いね」彼氏云へどもわれはただ鏡を覗きて頭(こうべ)を振れり
四季などに関はりはなく抑鬱に沈めるわれを誰か救はん
ひきこもるわれに逢はんと通ふ彼感謝のみあり悦びのみあり
ひきこもるわれに彼氏が出来たのはこの世の奇蹟と有難がりてをり
ひきこもるわれに希望はなかれども生きてゐるのは確かに感ず
働かぬわれは死すべきものなのか自問すれども答へなどなし
人はみないつかは死ぬと云ふとてもいつ死ぬのかが特に気になり
恋人と暮らす未来を夢見ても現実だけは常に厳しき
彼氏との二人暮らしはもしかして夫婦にも似て倦怠するかも
夢に見る愛情生活いつ来るかやはり来ぬかと気を揉みてゐる


短歌 男色を歌ふ歌ども(二千十一年十一月四日金曜日) Copyright 攝津正 2011-11-05 11:41:37
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