アラジン
salco

小春日和の土曜日
住み慣れぬ町を散策に出たアラジンは
ふと
今日は電車から見る一級河川に出てみようと
川辺の高層マンションに見当をつけ歩き出した
バス通りを渡り
古びた団地の中を突っ切り
ひなびた商店街を抜け
児童公園と墓地を迂回すると
目指すマンションを左手にした、
広大な空き地へ出た
犬を放している人がちらほらいる
見れば、杭で巡らせた金網がまくれ上がっている
子どもでもいればボール遊びが存分できるだろう
そんな呟きを胸に背を屈めた

雑草の中に立った時
土の感触は久し振りだと気付いた
西寄りの風が草原をざぁーっと撫でて行く
それを追って走り出したい衝動を抑え
風上へゆっくり大股に歩く
川の臭気が鼻柱隔をくすぐる
彼方の鉄橋を
黄色の電車が長閑な音で渡って行く
日射しを遮るものがないせいか
早くも額が汗ばんで来た
デザートブーツの尖で踏んだ小枝を拾い上げ
ブーメランの要領で投げてみた
案の定、風に弾かれ惨めな落ち方をした
と、草むらに白いものが横たわっている
動物の死骸か。
どきりとしたが、近付けば艶々と
和式便器だった

工場の跡地ででもあるのか
いや、1つということは誰かが捨てたのか
汚えな。
これが唯一の感想だったが
それは失われた用途のせいで
底面の無い便器はフレームように繁茂を囲い
まるで洗い立てられたように白い
眺める内に
むくむくと誘惑が起こって来た
縁をまたぎ、真ん中に立って見た
何か、ウキウキして来た
馬鹿馬鹿しい。恥ずかしい真似はやめろ。
いよいよ抗えなくなり、それでも浮かぶ想念に
汚えな。
と思いつつ
掌のばい菌に蛇口と水流を被せ
さりげなく見回してから腰を屈め
持ち上げてみた
幅が狭いので金隠しを左、後方を右手に
電車ごっこの格好である

と、両足が地面を離れた
アラジンは大きく息を吸うと
空を仰いだ
胸腔いっぱいの笑いを吐くように走り出す


自由詩 アラジン Copyright salco 2011-11-04 22:25:36
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