案山子になりたくて
灰泥軽茶

遠くの向こうから眺めていたら
誰かと思って近寄ったら
案山子だった

今にも動きそうな気配を漂わせているのは

こがねいろした稲穂が風で波打っているからだろうか
生命に溢れた大地に自分だけ命を授かっていないからだろうか

あちらこちらに
ぽつんぽつんと
可笑しな顔して立っている

街を歩いていると
案山子があちらこちらに
ぽつんぽつんと立っている

塾帰りの小学生であったり
女子高生であったり
ジャンクフードで満たされたお腹をさする会社員の男であったり
夜の装いをした髪の綺麗なお姉さんであったり
腰の曲がったお爺さんであったりした
人々が刹那に
この世界の一部でありたいと願ったとき

一応に皆
瞳孔は収縮し
体は藁のように柔らかくなっていき
片足はもげ
人の流れを人の営みを
円滑に支えているように守るように
大きく手を広げ立ちつくす


自由詩 案山子になりたくて Copyright 灰泥軽茶 2011-11-04 01:38:20
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