童貞論序説
天野茂典
晩秋の光が影法師のようにながくのびて
本棚の背文字までてらしている
いまはガス・ファンヒーターも止めて
漁師のようにきょうの釣果を量っている
コンビニへバイクで行ってきた詩集を
読みかけた 海までは遠い
いまのぼくの体力では 咽喉に草が
詰まっているのだ 耳鼻咽喉科では治らない
庭師だろうか 腕前の土木建築家だろうか
この草を取り除かなくては ぼくの
似顔絵は描けない 陽は落ちた
15:26分 ぼくはこれからお・ふ・ろへ入る
そうしてそこで河童になるのだ 河童の川流れ
まさか溺死しようはずはないが 草を
吐き出すことは無理だろう 体は洗うが
内臓までは洗えない 喉に草をつめたまま
これからも生きてゆくことになるのだろう
大学の校舎は暗い 反対側のひくいやまは
たそがれている カラスが一匹ないて去った
啄木は言った 詩は芸術でなくていい
ばらばらでいい
まとまったものでなくていい 日記のような
ものでいいと 温故知新 いま啄木ぼくは
石鹸で泡だらけになりながら ひそかに
河童になってやれ 童貞なんだよ
頭のシャンプーどうしよう
2004・11・23