眠ったままのなかの思考
ホロウ・シカエルボク





明るいところでいつまでも暮らせない、小さなしるしがなくなれば、ひとは、くらい路地の真ん中でひとり佇むかげになる、ほんのわずか、外界と自分を区分する薄い膜のせいで、聞こえる音が見える世界が少しだけ遠い、柔らかい氷河のような崩落がどこかで続いてる胸中を知る、椅子の背もたれの中で四次元的な隔たりが身体を動かなくさせる、西日はいつも痛みのない惜別のように見える、睡魔が先だと誰かが言う、まずは話が判るまで眠るがいいと…だけど表通りで誰かが道路を掘り始める、スピーカーのボリュームを、あげる、どんなに繰り返していてもはっきりと耳にしていたい、そういうものこそを本当は音楽と呼ぶ、小便を済ませると目が覚める、西日は背中を向けて帰り支度を始める、太陽は、太陽はひとりだろうか、それともなにか、そういうこととはまったく異なる法則のもとに進行するものなのだろうか、だけど、そうは思えないのだ、太陽は絶対に、上手いさよならの仕方を知っている、ほら、こんな気分には覚えがある、あたたかい亡霊だ、観念的な浮遊、誰にも捕まえられない…遠くでさまざまななにかが動き続けている、安易に地に足を着けられる連中のいとなみがそこにはある、道路工事はわずかな時間で目的を達成する、表通りはきっと今頃吸殻が溢れているだろう、部屋がだんだんと光をうしなってゆく、だけど、まだ明るい、果たしてそれを光と呼ぶことはかまわないのだろうか?路面電車が残していく振動は暫定的な目的ばかりを連想させる、小さな切符と投げ入れる小銭にどんな理由があるのかなど、本当は、誰も…明るさと入れ替わるように生まれてくる冷たい風、肌の表面の温度を巨大な蛭のように舐めつくして、袖を探すけれど見つけられない、もう少し寒くなるまで多分探そうとは、しない、小さな用事を片付けることを考える、ほんの少しのあいだ、なにも思わずに天井を眺めていよう、白いクロスのなかに夜のかげが見えたら人間に戻る準備だ、音楽が流れ続けている…呼吸が身体の中を流れてゆく音が聞こえているのならたぶんまだやることが残っている。






自由詩 眠ったままのなかの思考 Copyright ホロウ・シカエルボク 2011-10-31 21:49:43
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