[初恋の日]
東雲 李葉
それは、
自らするものではなく、
自ずと気がつくものであり、
自然と落ちるものである。
そう聞いたことがあった。
ときめきという言葉は、
例えば生きたものを触ったときとか。
新しい玩具を買ってもらったときとか。
両親にほめてもらったときとか。
そういうときのためだけの言葉でないと知った。
気がついたら落ちていた。
音も立てず一直線に胸の真ん中をすっと通って。
視線を交わすたび。言葉を交わすたび。手と手を交わすたび。
どこまでもどこまでも落下していく。
ときどき少しの痛みを伴って。
それは、
今までになかった高鳴りで。
全力で駆け抜けた後より心に近く。
黒板の前で口を開くより喉が乾いて。
新しい病かとさえ思っていた。
愛なんていう言葉は、
テレビの向こうで台本通りに囁かれるものであり。
はやりの歌の中、ローマ字と変わらない意味で口ずさまれるものであり。
する、とか、しない、とか考えたこともなかったのに。
うねった黒髪も、カップをくゆらす指も、皮肉な口元も。
全部全部ぜんぶ。
気がついたら倒れていた。
落ちていく先はもうない。今はこのまま溶けて滲んで広がるだけ。
指と指で交わるたび。口と口で交わるたび。目と目で交わるたび。
じわりと滲んでどこまでも広がっていく。赤く。濡れる。熱く。
初めてはぜんぶ君に教わった。
初めてはぜんぶ君に渡した。
初めてはぜんぶ君だけに。
まるでシートベルトのないジェットコースターのようだった。
予測できない落下地点のどこにだって僕は君の姿を見つけた。