砂丘の花
三条麗菜

いつの間にか
ひどい太陽が照りつける砂丘を
歩いている
その光は熱くはないけれど
肌を痛めつける
きっとこのまま
倒れてしまうのだろうけど
この痛さでは
安らかな死を迎えることはなさそうだ
砂丘はいくつ超えても
終わりがない

いつの間にか
隣に子供がいて
微笑んで私を見上げている

  なぜ遊ばないの?

死ぬかもしれない時に
遊べるわけがないでしょう

  この砂はよく滑るんだよ

そう言って子供は
砂の斜面に座って滑り始めた
下まで降りてしまうと
向こうの高い斜面を登り始めた

  おいでよ

私も真似して座ってみたが
腰が沈むばかりで
滑り降りるなんてできない
しかたなく歩いて降りて
子供を追ってまた登り始めた
子供はもう砂の頂上にいる

  ほら見て

私も頂上に着き
子供の指す方を見た
目の前に広がるのは
砂丘でできた巨大な花だった

  花が咲いているよ

花なんかじゃない
あれは全部砂
命の無い世界なんだよ

  違うんだな
  知っているくせに

子供はそう言って笑った
確かに私は知っている
ジョージア・オキーフという画家が
描いた絵だ
キャンバス一面に一つの花
でもあれは本物の花を描いたもの
砂の世界ではない

  何が本物かって
  そんなことどうだっていいんだ

子供はそう言って
また斜面を楽しそうに滑り始めた
私は一人残された

砂の中にはキラキラ光る粒が
混ざっている
風も無いのにその光が
またたいていることに気づいた

ここは砂丘に見えるけれど
砂丘ではないということ
そしてここが
私の中の幻だとしたら
私にはまだ
残されたものがあるということだ


自由詩 砂丘の花 Copyright 三条麗菜 2011-10-26 23:20:22
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