振り子の夜
つむ

絶望と希望はいちにち一往復が限界だった
苺のような滴りに身をゆだねながら
時を呼びよせる甘い夢をみている

木から落ちてゆく大きな白い花びら
スローモーションの重みの永続
僕の傷口で虫たちが休むので
目を閉じて浸食に耐える、冬は
やわらかいものが皆凍ってしまう
血も、水も花も

永い苦痛すら一往復でこと足りる
青みがかった果実のような片道を今
足首はくじいたままで、透明な
痛みの季節にも花は咲いて行く、だが
(鳥よ 遠い地平から群れをなして現れ
 空を塗りかえる喝采となれ、)

蛇腹に折られた階段が蠕動を始め
ささやかな光を掃い落としてしまう
止まれ、時間は、
厚くやわらかないのちに掛けられてゆく鉋(かんな)
両手をあげて せめて歌おうか
鳥のように、
形を拒む この日々の青を

さなぎ その中で
まだ羽は濡れている
憩え、白い夢の底に
僕らには悲しみのための一往復が許されている
笑うことも、飛び立つまでの間を
醜くころがることも すべて
与えられた季節のあいだは何もかもが
たたみこまれた皺だらけの羽に
小さな秘密として明かされている

そうしてまた戻って来よう
涙の河の一往復が
胸の小舟をまちうけているだろう
天から白い花びらが降りそそぎ
地平は白にみちる
胸の淵を埋め尽くすまで。
接続をまちがえた夜のかたすみ、
おかしな半月のように掛かる 割られた薬の粒も、
そっと注ぐ牛乳の螺旋も 木蓮の花も なにもかも
白は白の海へ、
音もない落下をつづける

絶望も希望もいちにち一往復が限界だった
空は 遠ければ遠いほどいい
血が血を冷やしたとしても、
そっと剥がれてゆく季節のゆびが
どんなに傷口をくるしめたとしても。
(虹を待つ、ことは
 両腕を広げて
 地平の無言を抱きしめること、)
ゆこう、
許された一往復を
星降る夜空の振り子のように。


自由詩 振り子の夜 Copyright つむ 2011-10-21 21:19:46
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