黒い車
藤鈴呼

黒塗りの車を目にすると
自然と 厳かな気持ちに成る

心が きゅっ と 引き締まるような
一瞬 苦しくなるような 感情

磨き上げられたボディー
運転手は 白い手袋

長いリムジンから 降りて来るのは
名の知られた人達

世間一般に 名を知られずとも
所謂 庶民でも乗れる 
黒い車が 有ります

見送られる 瞬間 あなたは
生きた 心地が しないでしょう

何故って あなたは もう
生きて いないのですから

生きている内が 全てだから
精一杯 歩みたい

そんな気持ちを 持ち続けながら
悩む時

ピカピカの 黒い鏡に映る
自らの影を 眺めながら
ひっそりと 涙を 流す

自分の記憶が 消えた跡で
立派な車に 乗せられる理由が
分からないと 首を 捻る

きっと 残された者たちの
後悔なのでしょう

もっと こうして あげたかった
最期くらいは ちゃんと
見送って あげたいから

その 「ちゃんと」 を
形にする術を
他に 知らぬから

戒名や 花で 精一杯
故人を

そして これからの 
自分の未来をも
飾り立てるのです

もしくは 突然の 旅立ちに
心を 合わせる 準備期間

永い 作業には
蝋燭の 焔には
長かった 時間を
組み込める だろうから

組み込み切れずとも
何処かで 切らなければ ならぬ
瞬間の 為の
準備なのかも 知れません

そうやって 見詰める 黒い車は
哀し過ぎるから

出来るなら
感謝の気持ちだけを
込めたいのです

その為に 今 出来ること

恥ずかしいとか 照れくさいとか
言わないで

いや 
言葉に 出来るなら
寧ろ 最高なのです

目の前の 相手に向けて
伝えたいことを
伝えられる内に
出来るだけ 素直な心で

向き合うこと
語り合うこと

掃除と 一緒なんですね
埃に 気付いてるのに
放置していたら
磨く時の 苦労は 数倍

日々 重ねて行けば
何でも ないこと

他人から映る 自分の部屋
誇りの為に 磨くのだと
勘違い しないこと

いつか 私も
黒い車で 見送られるでしょう
その時は
黒い心は 残したく ないな

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自由詩 黒い車 Copyright 藤鈴呼 2011-10-20 23:56:27
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