十月
ズー



胸のなかで朝がつめたく、一番に鳴く鶏は、庭でブイのように漂っている、モリで、ブイをつけ狙うこどもは沖に流されていく、家の子が漂流している間は、鶏肉を食べながら過ごした縁側に寝床を移し、鶏とこどもが浮かんでいる庭の波音を聞いていた。雨の心配をする母親と縁側に、横になり、てるてる坊主をつくったり、波打際を遊んだ足を絡ませたり、砂浜がなくなっていくことを悲しんだり、満潮になるまで、庭を眺めていた。胸のなかで雪が降る、と書けば、雪も積もったのだろうが、十月の終り、ずいぶん前から砂浜の寝床は雑草に侵されていて、妻と見ていた庭も荒波の茂る冬のはじまりが海面に浮かび上がり、蝶々だった鴎が泡立つ枯れ草のすれすれを飛んでいた。沖のブイが鳴いている、と思っていたが、こどものふやけた手に握られたモリが、わたしの布団に潜り込んできて、太股にふれていた。縁側の寝床は眠りから遠く、鶏肉を食べながら過ごした砂浜は、もう、ない。心配だった雨の降る庭の、一切を見守っている、鶏が朝に鳴く。


自由詩 十月 Copyright ズー 2011-10-19 10:32:57
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