遠い未来
桜 歩美

あの日は遠かった

今はもうこんなにすぐそばにあるけれど

思い描いた未来とは

ちがっている



私の思い描いた想像のなかにあったのは

小さな灯りの中にある

ささやかな幸せだった



だけど今は

そんなものすら見えやしない

どこにも見えない



見えるのは

欲望と絶望の交錯した日々だけ

あるのは小さな希望だけ



とんでもないところへ

辿りついてしまったものだ

いつか山を越えるって約束したのに

いつのまにか谷に堕ちて

這い上がっても這い上がっても

落っこちてを繰り返し



もうくたびれて

谷底の暮らしも慣れてしまったようだ

だけど

ある日小さな坊やは言うのだ



「おかあさん ぼく 将来は美味しいお料理を作るコックさんになるんだ」



坊やには見えるみたいだ

希望の光ってやつが

私にはもう見えなくなってしまった光が

見えているんだ

坊やの瞳はキラキラ輝いて眩しかった



君ならなれるさ

とびきり美味しいやつをそのときはお願いするよ

坊やの今のその瞳のまんまで

お母さんのところへ美味しいお料理届けてね





自由詩 遠い未来 Copyright 桜 歩美 2011-10-17 22:03:22
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