立方体
渡 ひろこ

いま、立方体の中で手足を折り曲げている
きっちり蓋を閉めて 一分の隙もないように
それでもはみ出しまう「私」が漏れ出て
側面を綴りながら、ゆっくり滴っていく


シジン、と名乗っているうちに
いつの間にか変換キーが
ヘンジン、としか表示しなくなったのだ
きっと似非えせ、という冠を頭に乗せて
お道化てばかりいるからだろう


行く先々で出会う
似非えせシジン
じゃないまっとうな人たちは
正確に計られた立方体に
収まることが身についている
そしてどんな場面でも目測を誤らない
すばやく相手の雰囲気を察知して
距離感を測る
言葉の種類と位置を確認して
適切な間合いと整った所作で
さりげなく置いていく


おそらく恋に狂って自分を見失う
なんていうことさえなければ
はみ出さない人たち


私も寸分の狂いもない
立方体に収まりたいが
なぜかはみ出す
ピッタリとハマって
身体が馴染むように押し込んでも
途端にピョンと外に弾け出る
そう、玩具屋で見かけるあれだ
蓋を開けたら飛び出す
満面の笑みに涙を描いた道化師               
                                         
  
このままだと弾き出たまま路上に放置され                     
ヘンジン、のままで錆びついてしまうだろう                    
すでに周りには嘲笑する観客すらいない                      

                                        
いま、私の中で蠢くものを封印しようと                      
息を殺し、喰いしばっている                           
形状記憶した神経が、内側からガタガタっと
立方体を揺らし始めた






自由詩 立方体 Copyright 渡 ひろこ 2011-10-17 19:23:00縦
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