大、大、大、だぁ〜い好きー1
草野大悟

体中の細胞ひとつひとつに爽やかな風がみちあふれてくるような朝
どこまでも青い空が広がっていた。

浜中朱理(あかり)は、今年、城西大学医学部を卒業して研修医になる。
将来は、脳神経外科医をめざしている。
彼女の父はその大学の医学部内科教授、母は市内で弁護しをしている。

彼女の父と母は、開成高校のクラスメイトで、高校時代からとても仲が良く、
まわりの目などまったく気にせずに付き合っていた。
成績も三年間ずっと、一番と二番を交互にとっていたらしく、たまに暇ができて
家族三人で食事に出かけて酒がはいると、その頃のことをなつかしそうに話す。
朱理はそのたびに、またぁ、と内心おもうのだけれど、両親がこんなに愛し合っていて
その愛の結果、私が生まれたんだと思うと、なんか、ほんわかした、いい気分になる。
もちろん、ワインのせいも少しはあるかもしれない。

そんなとき、朱理は数えきれないほどある両親との楽しい思い出をひとつひとつ反芻して
幸せに満たされる。
ときおり、幼稚園のころ突然あらわれたライバルに対する敵愾心が顔をのぞかせ、彼女を
すこしばかり不機嫌にするが・・・
卒業祝いのワインのここちよい酔いが、朱理をあの頃へといざなってゆく・・・・・・


両親はどんなに忙しくても、私を大切に見守り、育んでくれた。父兄参観には必ず二人
そろって来てくれたし、三者面談のときも二人で来てくれた。父も母もみんなが思わず
振り返るほど輝いていた。私は、そんな両親がとても自慢だった。
幼稚園は、家の近くの「くるみ幼稚園」に通った。年少クラスのころから「りす組」の
みんなが私と友だちになりたがっているのが分かった。私はいつだってみんなの中心だった。私のいうことには、不思議なほどみんなが従った。先生でさえも。

それが当然と思うように慣れきって年長クラスになった春に、その子が「りす組」に転入してきた。
「きょうからみなさんのお友達になる佐藤陽子ちゃんです。みなさん、なかよくして上げて下さい」
先生が紹介すると、大きくて勝ち気な目をしたその子は
「佐藤陽子です。よろしくお願いします」といって、ぴょこんとショートカットの頭を下げた。

彼女の運動神経は抜群で、かけっこも、跳び箱も、お遊戯も、縄跳びも良くできた。
今まで、私が余裕で一番だったのに。幼稚園に行って初めて、私はかけっこで二番という屈辱を味わった。
家に帰って、父と母にそのことを話した。二人は、ほう、と少し驚いた顔をしたけれど、父がすぐに「な〜に、そのうち朱理が一番だってみんな気づいてくるよ、もちろん、先生もね」そう自信たっぷりにいうので、私もすこしばかり安心して眠りについた。 


自由詩 大、大、大、だぁ〜い好きー1 Copyright 草野大悟 2011-10-16 21:19:50
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