アイテム
ホロウ・シカエルボク




くらい匂いのする国境のラインを
冷たい土を抱いたまま駆けぬける世代の
土くれに摩耗したブーツについた名前はプライド
硝煙たちが
演算されるコンピューター・システムみたいに次々と成仏した塹壕の名残で
上手くきけない口を閉じたまま撃鉄が弾き出す次の太陽を待ちわびた




虫たちは
オーケストラの肩慣らしのようにたいして気持ちのない音を響かせ
まるで運命の足音のように聞こえる
どうしても短くなる呼吸を必死で制御しながら
子供のころに廊下に落とした
ディストーション・ギターみたいな泣声のことを思い出す
そんな瞬間にはラジオが聴きたくなる
周波数を合わせて
国境のないところを飛んでくる音楽を聴きたくなる
まだ
スナックの箱のように素っ気なかった
スピーカーとチューナーだけのラジオで




母親のいない部屋の
わずかなぬくもりだったあのラジオ




ジャングルの中で狙い撃ちをされた仲間たちのうちで
何人が死神の裾を掴んで行ったんだろう
あと数ミリタイミングが違えば
脳漿を魚のビタミンに変えたのは自分だった
規律や統率のなくなった夜の中で思うことは
何故生きたいのか何故死にたくないのかとただそれだけ
小銃を空に向ける
パイナップルみたいな腕時計が誰も知らない時間を指す
草原の彼方からは
仲間の死骸を喰らい尽くすようなおぞましい風が吹く
恋人のイヤリングと妹のハンカチが
僅かに自分を思い出すシステムだった




足音が聞こえる
そこには何人居るんだろう






自由詩 アイテム Copyright ホロウ・シカエルボク 2011-10-14 00:13:30
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